ベタベタな恋愛小説が苦手な方にもおすすめ!
ロマンス小説の七日間
KADOKAWA / 角川書店
2003.11.22
この本のあらすじ
海外翻訳を生業とする20代のあかりは、現実にはさえない彼氏と同棲中。そんな中ヒストリカル・ロマンス小説の翻訳を引き受ける。最初は内容と現実とのギャップにめまいを感じていたが・・・・・・。
おすすめコメント
あまり恋愛小説のイメージのない三浦しをんが、出版社からの恋愛小説を執筆してほしいとの依頼を受けて書き上げた新感覚の恋愛小説です。本作は主人公であるあかりの現実の恋愛と、彼女が作中で執筆しているハーレクインのような海外ロマンス小説、ふたつの物語が並行して語られる構成になっています。そして、現実の世界であかりが直面している恋愛のほろ苦さや苦しさが、執筆しているベタベタ甘々なロマンス小説の翻訳にも浸食していくという設定がなんともユニークで面白い!三浦しをんらしくふんわりと余韻をのこしたラストも大変心地よいです。
喜劇的で悲劇的なニシノユキヒコの半生
ニシノユキヒコの恋と冒険
新潮社
2006.8.1
この本のあらすじ
ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ……。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。
おすすめコメント
仕事もできて、ルックスが抜群に良く、女性が自分に求めることが自然と分かり、それをさりげなく差し出すことができる男、それがニシノユキヒコです。こんな男性がいたらそりゃ当然モテますよね。案の定、作中でも面白いようにモテるのですが、最後には結局振られてしまう。歴代の交際女性の証言を通して浮かび上がってくるニシノユキヒコのキャラクターがでとてもチャーミングであると同時に、女性の求めるものを完璧に提示する“だけ”の男として描かれる様はどこか物悲しく悲劇的でもあります。
異端の作家による純度100%の恋愛小説
好き好き大好き超愛してる。
講談社
2008.6.13
この本のあらすじ
愛は祈りだ。僕は祈る。僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。「恋愛」と「小説」をめぐる恋愛小説。
おすすめコメント
00年代、10年代の最重要作家のひとり舞城王太郎。ミステリやハードボイルド小説を得意とする彼が本作で掲げたテーマはズバリ「愛」とは何か?『世界の中心で愛を叫ぶ』『恋空』『冬のソナタ』に代表するような表層的ともとれる純愛ブームの裏側で、「愛」というものを愚直なまでに真正面から見つめ直した本作。どうしてもその独特の言語感覚や文体のリズム感、スピード感に目がいきがちな作家ですが、僕はテーマに対して真摯に誠実に向き合い、苦しみながらも簡単に目をそらさないその姿勢が何より好きです。本作の主人公である小説家が、小説を書くことを通じて、彼女の死と向き合う様子はとても感動的。
日本文学の最高峰
春琴抄
新潮社
1951.2.2
この本のあらすじ
盲目の三味線師匠春琴に仕える佐助の愛と献身を描いて谷崎文学の頂点をなす作品。幼い頃から春琴に付添い、彼女にとってなくてはならぬ人間になっていた奉公人の佐助は、後年春琴がその美貌を何者かによって傷つけられるや、彼女の面影を脳裡に永遠に保有するため自ら盲目の世界に入る。単なる被虐趣味をつきぬけて、思考と官能が融合した美の陶酔の世界をくりひろげる。
おすすめコメント
日本文学史上屈指の文章力をもつ谷崎潤一郎だからこそ語り得た狂おしくも美しい愛の物語です。一切の無駄を削ぎ落とし、宝石のように磨き上げられた本作は、100ページあまりの短い物語の中で、人間の「愛」の本質的な尊さと美しさ、そしてその裏側にある傲慢さと暴力性までも描き、見事に文章による芸術へと昇華しています。かなり屈折した愛の形ではありますが、甘美で耽美な珠玉の恋愛小説です。
ロマンティックで儚い恋物語
グレート・ギャツビー
新潮社
1974.7.2
この本のあらすじ
豪奢な邸宅に住み、絢爛たる栄華に生きる謎の男ギャツビーの胸の中には、一途に愛情を捧げ、そして失った恋人デイズィを取りもどそうとする異常な執念が育まれていた……。第一次大戦後のニューヨーク郊外を舞台に、狂おしいまでにひたむきな情熱に駆られた男の悲劇的な生涯を描いて、滅びゆくものの美しさと、青春の光と影がただよう憂愁の世界をはなやかに謳いあげる。
おすすめコメント
ヘミングウェイの『移動祝祭日』、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、そして村上春樹の『ノルウェイの森』。これらの著名な作品の中にもたびたび登場し、高い評価を得ている世界的名作が『グレート・ギャツビー』です。2013年、レオナルド・ディカプリオ主演での映画化も記憶に新しく、名前は聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。巨万の富を獲得し、誰の目にも明らかな「成功者」となったギャツビーが、ひとりの憧れの女性を求めて毎夜パーティーを繰り返す。煌びやかで狂騒的なパーティと、ギャツビーの儚く脆い夢との対比が見事で、ひとりの女性を一途に想い続ける切なく無垢な恋心に胸を打たれます。
今回ご紹介した5冊を振り返ってみると、わかりやすいハッピーエンドの物語がないあたりに選者の屈折した想いが見え隠れしてしまっていますね。さて次週は「胃袋を刺激する食の本」をお送りしますので、どうぞお楽しみに!