よしもとばななの真骨頂
海のふた
中央公論新社
2006.6.25
この本のあらすじ
ふるさと西伊豆の小さな町は、海も山も人も寂れてしまっていた。実家に帰った私は、ささやかな夢と故郷への想いを胸に、大好きなかき氷の店を始めることにした。大切な人を亡くしたばかりのはじめちゃんと一緒に……。自分らしく生きる道を探す女の子たちの夏。版画家・名嘉睦稔の挿画26点を収録。
おすすめコメント
海辺の町を舞台にした作品を多数書いているよしもとばなな。その中でも、今のような季節にオススメなのが本作「海のふた」です。西伊豆の広々とした海、海を照らす美しい夕日、じっとりとした夏の空気、その手触りまでもが伝わってくるような、静かだけど迫力のある描写に引き込まれます。そして本作では「海」と同じくらい重要なモチーフとなっている「かき氷」。主人公が丁寧に心を込めて作るかき氷のなんとも美味しそうなこと。ちなみに本作は2015年7月に菊池亜希子主演で映画化され、作中に登場するかき氷は鵠沼海岸のかき氷の名店「埜庵」が監修をしています。これがまたよだれがこぼれるくらい美味しそうなのです。海に行きたくなるというよりかき氷が食べたくなる作品ですね。
海中の美しさに圧倒される
海獣の子供
小学館
2007.7.30
この本のあらすじ
部活での居場所をなくしてしまった少女・琉花が、夜の海で出会った不思議な少年・海――。港町と水族館を舞台に繰り広げられる、五感をふるわす少年少女海洋冒険譚!!海にほど近い、とある田舎町の夏休み。中学生の安海琉花はハンドボール部の友人をケガさせてしまい、顧問から「夏休みの間部活へ来なくていい」と言われてしまう。ぽっかりと時間を持て余すことになった琉花は、ふと東京の海を見ようと思い立ち、電車に乗り込むが・・・。
おすすめコメント
五十嵐大介の初の長編作品がこちらの『海獣の子供』です。『リトル・フォレスト』『魔女』などでも、草、海、虫などの自然の描写は光っていましたが、本作ではまた一段と凄みを増し、神秘的で荘厳な自然の姿を見事に描ききっています。ジュゴンに育てられたという二人の少年ののびのびとした遊泳姿を見ていると、自分も何もかも忘れて今すぐ海で泳ぎたいという気持ちになってきます。5巻で完結しているマンガなので、夏休み・お盆休みのお供にいかがでしょうか。
海を愛し、海に愛された男のドラマ
クジラが見る夢
ボイジャー
2014.7.1
この本のあらすじ
1994年の春、池澤夏樹はジャック・マイヨールと共に西インド諸島のいくつもの島を転々としながら暮らした。小さな静かな島でジャックの友人たちと話し、島影一つ見えない海でクジラが来るのを待った。ジャック・マイヨールの思想を理解するには一緒に海にいくしかない。彼が泳ぐ水に入り、彼を取り巻くイルカたちにまぎれて泳ぐ。クジラと同じ気持ちでクジラに近づく。彼がいかにして105メートルの深みに至ったか、おぼろげにわかった。海そのものは人の理解を超えるが、人にとっての海の意味は理解できる。浪に乗って遊ぶイルカの喜びを想像し、月光の海に眠るクジラの夢を思い描くこともできる。これはそういう幸福な日々の記録である。
おすすめコメント
フランスの伝説的なダイバー、ジャック・マイヨールがイルカやクジラに会いに行く旅に同行した池澤夏樹によるノンフィクションです。冒頭の「その数日間、目が覚めると風の音と潮騒を聞くのが習慣になっていた。」という一文が、読者をひょいっと西インド諸島の島々にトリップさせてくれます。小説ではありませんが、美しい水中写真もたくさん収録されていて、暑い夏にはオススメの一冊です。
海賊マンガの傑作です!
万祝
講談社
2003.8.5
この本のあらすじ
「強く……強くなってね!」亡き母親の言葉を文字通りとらえ、強さを求め続ける15歳の女子高生・フナコ。ある日、平凡な父との二人暮らしにうんざりしている彼女の家に、謎の下宿人・カトーが現れた。亡くなった名漁師のおじーちゃんに異常なまでに興味を示すカトーに不信感を抱くフナコ。そんな中、彼女の家に泥棒が入り、フナコは海上へと連れ去られてしまった……。こいつらって、カイゾク!? 血湧き肉躍る、現代海洋冒険ロマン!
おすすめコメント
タイトルになっている「万祝(まいわい)」とは、江戸時代から戦前にかけて漁師の間で広まった大漁を祝う晴れ着のことです。本作は主人公である女子高生のフナコが、荒れ狂う大海原で海賊たちや巨大なサメと格闘するというなんともマンガ的な海洋冒険ロマン活劇です。しかしこれが最高に面白い!宝物を求めて冒険するところは映画『インディ・ジョーンズ』のようで手に汗握ります。海賊モノといえば『ONE PIECE』を思い浮かべる方も多いと思いますが、こちらも負けず劣らずの傑作ですので、ぜひこの夏に読んでみてはいかがでしょうか。
海辺で暮らしたくなる名作
海の物語
KADOKAWA / 角川書店
1999.8
この本のあらすじ
真っ直ぐに生きる海の人たち――。浜辺の町を舞台に、腕利きの漁師である父親と二人で暮らす少年健太郎と、都会からの転校生可南子、担任の若い教師紀子先生との交流を鮮やかに描く。「海族」と名乗る灰谷氏が綴る浜っ子言葉は、軽やかであくまでも陽気である。海に生きる人々が持つ根本的な明るさは、あらゆる苦しみを乗り越え、全ての人の心に育まれてゆく。眩しい海の光が詰まった一冊。
おすすめコメント
『兎の眼』『太陽の子』などで、子どもたちの純粋で屈託のない姿を描いてきた灰谷健次郎。元教師の著者だけあって子どものいきいきとした描写が本当に素晴らしいと思います。本作はそんな彼が、海に寄り添い、海を愛する子どもと大人の日常を丁寧に紡いだ物語。海辺の町で暮らす人々の風俗がとてもリアルに描かれていて、自然の中で生きることの喜びを教えてくれる名作です。
いかがでしたか。今回ご紹介した、よしもとばななの傑作『海のふた』は先月映画化されたばかり!今なら、原作を読んで、映画を見て、鵠沼にかき氷を食べに行くという最高の体験ができますよ。さて次週は「真夏の怪談特集」をお送りします。どうぞお楽しみに!