国産ファンタジーの最高峰
獣の奏者(1)
講談社
2009.8.12
この本のあらすじ
児童文学のノーベル賞にあたる、国際アンデルセン賞作家賞受賞! 世界的注目作家の新たなる代表作。リョザ神王国。闘蛇村に暮らす少女エリンの幸せな日々は、闘蛇を死なせた罪に問われた母との別れを境に一転する。母の不思議な指笛によって死地を逃れ、蜂飼いのジョウンに救われて九死に一生を得たエリンは、母と同じ獣ノ医術師を目指すが――。苦難に立ち向かう少女の物語が、いまここに幕を開ける!
おすすめコメント
詩人の谷川俊太郎さんは「ファンタジィはいわば現実の組みかえによって、より深い真実に達しようとする試みだ。」と著書のなかで語っておりましたが、そういった意味で本作は極上のファンタジー作品と言えると思います。「ファンタジー」という言葉から想像するフワッとした要素は全くなく、練り上げられた世界観、血肉の通ったキャラクターが、とてつもない実在感を持って描かれ、僕らの世界におけるある真実に確かに迫ろうとしています。布団に潜り込んで読んでいるとのめり込みすぎて眠れなくなってしまいますが、読書の純粋な楽しみを思い出させてくれる最高の作品です。
痺れるような表現が詰まった宝箱
歌おう、感電するほどの喜びを!
早川書房
2015.6.4
この本のあらすじ
母さんが死んで悲しみにくれるわが家に、ある日「電子おばあさん」がやってきた。ぼくたちとおばあさんが過ごした日々を描いた表題作、ヘミングウェイにオマージュを捧げた「キリマンジャロ・マシーン」など、幻想味溢れる全18篇を収録。『歌おう、感電するほどの喜びを!』『キリマンジャロ・マシーン』合本版
おすすめコメント
ブラッドベリらしい寓話のような、叙事詩のような味わい深い短編が18編収録されています。ウォルト・ホイットマンの詩からの引用で、表題にもなっている「歌おう、感電するほどの喜びを!」のように、自由闊達でロマンチックな表現(翻訳も見事!)がたくさん詰まっていて、声に出して読みたくなる楽しいお話ばかりです。こういった叙情的なSF、ファンタジー作品を書ける作家はブラッドベリの他にあまりいないので、ブラッドベリ作品を読んだことがない方には少しイメージがしづらいかもしれませんが、他の作家の作品で味わえない独特の魅力があります。ぜひ未読の方はトライしてみてくださいませ。
いま一番読むべきSF小説
火星の人
早川書房
2014.8.25
この本のあらすじ
有人火星探査が開始されて3度目のミッションは、猛烈な砂嵐によりわずか6日目にして中止を余儀なくされた。だが、不運はそれだけで終わらない。火星を離脱する寸前、折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐のなかへと姿を消した。ところが――。奇跡的にマークは生きていた!? 不毛の赤い惑星に一人残された彼は限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びていく。宇宙開発新時代の傑作ハードSF。
おすすめコメント
アメリカでの絶大な高評価を受けて鳴り物入りで日本語翻訳版が出版され、SF好きの間で絶賛された本作。2015年の星雲賞も受賞し、2016年にはリドリー・スコット監督によって映画化もされますので、いま一番読むべきSF小説であるのは間違いないと思います。正真正銘のSF小説ではありますが、設定がかなりシンプルでオーソドックスなので、SF小説の突飛で入り組んだ仕掛けが苦手と言った方にこそオススメしたい作品です。さらに作中に登場する酸素供給装置や水再生システム、火星用宇宙服などのテクノロジーの多くが、すでに実在しているという点も、本作の親しみやすさに繋がっているのだと思います。
現代日本版・赤毛のアン
本屋さんのダイアナ
新潮社
2014.4.22
この本のあらすじ
「大穴(ダイアナ)」という名前、金色に染められたバサバサの髪。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人だけど、私たちは一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に――。自分を受け入れた時、初めて自分を好きになれる! 試練を越えて大人になる二人の少女。最強のダブルヒロイン小説。
おすすめコメント
うーん、すごく面白い。いわゆる「キラキラネーム」をつけられたダイアナと、お嬢様で箱入り娘の彩子。性格も境遇もルックスも全く違う二人のヒロインの感動的な成長物語です。男性の僕が読んでもしっかり感情移入して楽しめたので、女性が読んだら夢見がちな少女たちの葛藤により深く共感できるのではないでしょうか。二人をつなぐものが「本」であるというのも、本好きとしてはグッときてしまいます。
ローラン・ビネのデビュー作にして超傑作
HHhH――プラハ、1942年
東京創元社
2013.6.28
この本のあらすじ
ナチによるユダヤ人大量虐殺の首謀者で責任者であったラインハルト・ハイドリヒ。ヒムラーの右腕だった彼は〈第三帝国で最も危険な男〉〈金髪の野獣〉等と怖れられた。類人猿作戦と呼ばれたハイドリヒ暗殺計画は、ロンドンに亡命したチェコ政府が送り込んだ二人の青年パラシュート部隊員によってプラハで決行された。そして、それに続くナチの報復、青年たちの運命・・・・・・。ハイドリヒとはいかなる怪物だったのか?ナチとはいったい何だったのか?本書の登場人物すべてが実在の人物である。史実を題材に小説を書くことに、ビネはためらい、悩みながら全力で挑み、小説を書くということの本質を自らに、そして読者に問いかける。小説とは何か?
おすすめコメント
偉大な歴史小説であるのは確かですが、あらすじを読んでオーソドックスな歴史小説だと思って読み進めると少々面食らうかもしれません。本作の最大の特徴はそのメタフィクション性。これを踏まえて内容を要約すると<ユダヤ人大量虐殺の中心人物であるハインリヒの暗殺という刺激的なテーマのノンフィクション小説>を書こうとしている小説家(=ビネ)の苦悩や葛藤、その果てにある成長を描いた物語、となるのではないでしょうか。ハインリヒ暗殺の緊迫感溢れる展開自体にもぐいぐい引き込まれてしまうのですが、潔癖なまでに「史実」にこだわるビネが、大量の史料と挌闘しながらジリジリとにじり寄るように歴史の真実に肉薄していく様子が何よりスリリングなのです!
いかがでしたか。実は柚木麻子さんの作品は『本屋さんのダイアナ』が初めてだったのですが、面白すぎて一気にファンになってしまいました。 じっくり読書に没頭できる時間があるというのは幸せなことですね。さて次週は「胸がときめく青春マンガ」をお送りします。どうぞお楽しみに!