第3回Twitter文学賞国内篇第1位の話題作
本にだって雄と雌があります
新潮社
2012/10/22
この本のあらすじ
深井家には禁忌(タブー)があった。本棚の本の位置を決して変えてはいけない。九歳の少年が何気なくその掟を破ったとき、書物と書物とが交わって、新しい書物が生まれてしまった――! 昭和の大阪で起こった幸福な奇跡を皮切りに、明治から現代、そして未来へ続く父子四代の悲劇&喜劇を饒舌に語りたおすマジックリアリズム長編。
おすすめコメント
本好きなら誰もが覚えのある「いつのまにか本が増えて部屋が浸食されていく」という現象から着想し、本と本が夜な夜な交尾をして増殖していくというアイデアがとてもユニーク。著者の小田雅久仁は『鴨川ホルモー』の万城目学にも通じる独創的なユーモア感覚の持ち主で、ファンタジックな要素を日常に取り入れる巧みさに非凡な才能を感じます。父子四代ながら壮大な物語ながら、鈍重な印象はまったくなく、登場人物の掛け合いの面白さと、独特の文体がもつ勢いが軽やかに読者を引き込んでくれます。まだ単行本は2冊しか出版されていませんが、今後が最も楽しみな作家のひとりです。
笑える小説といえばこの作家は外せない!
イン・ザ・プール
文藝春秋
2006/3/10
この本のあらすじ
体調不良のはずが水泳中毒に、ケータイがないと冷や汗がでる、勃起して、ずーっとそのまま直らない。藁をもつかむ思いで訪れた神経科で患者たちを待っていたのは──とてつもなくヘンな医者だった! カバと見まごう巨体を揺らし、度外れた好奇心で患者の私生活に踏み込み、やりたい放題。でもなぜか病は快方へ……?
おすすめコメント
本作の主人公であるトンデモ精神科医・伊良部一郎は、良く言えば天真爛漫な天才、悪く言えば無神経な天然ボケ。彼のおよそ医者とは思えぬ奇矯な言動の数々がとにかく笑えます。現代人特有の病を抱えた5人の相談者が、伊良部の型破りな治療(?)に振り回されつつも、最終的には見事に回復するというシンプルなストーリーの短篇集なので、忙しくて気持ちがくさくさしている時など、気楽な気持ちで楽しめるのも本書のいいところ。読後、トンデモ医師・伊良部のファンになったら続編『空中ブランコ』『町長選挙』もオススメです!
名作の数々を下敷きにした大胆なパロディ
どすこい。
集英社
2004/11/19
この本のあらすじ
地響きがする──と思って戴きたい……相撲取りの討ち入りを描く「四十七人の力士」、肥満ミトコンドリアが暴れる「パラサイト・デブ」などなど数々の名作を下敷きに、パロディの極北を目指したお笑い連作巨編がついに文庫化。炸裂する京極ギャグの奔流に、いつしかあなたは肉の虜となる。
おすすめコメント
その文章力、物語構成力に定評のあるベストセラー作家・京極夏彦による全力の悪ふざけです。筒井康隆的なナンセンスなユーモアをベースに、数々のベストセラー小説にこれでもかというほどの相撲やデブネタを盛り込んでパロディにした怪作短篇集!「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」などタイトルからして非常に下らないのだけど、その潔いバカバカしさこそが本作の美点。元のお話を読んでいなくても十分に楽しめますが、意外にちゃんと元ネタをなぞっていたりもするので、元のお話のあらすじだけでも押さえてから読み進めるのがオススメです!
青春エンターテインメント小説の大傑作
下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん
小学館
2004/3/1
この本のあらすじ
四方八方田んぼだらけの茨城県下妻。そんな田舎で浮きまくりのバリバリロリータ少女 ・ 桃子は、大好きなお洋服欲しさに始めた個人販売で、これまた時代遅れなバリバリ ヤンキー少女・イチコと出会う。見た目も趣味も全く違うこの二人。わかり合えるはずはないのに、やがて不思議な友情が芽生えて……。
おすすめコメント
ロリータ少女とヤンキー少女。どちらも自由を愛し、その強烈な美学と美意識ゆえに社会的にはマイノリティで異端の存在です。まったく異なる主義主張を持っている彼女たちのチグハグなやりとりが面白く、次第に互いの価値観を理解し、尊重するようになっていく様子はとても感動的です。深田恭子(ロリータ少女)と土屋アンナ(ヤンキー少女)のダブル主演で映画化された本作ですが、映画が楽しめて原作未読の方はもちろん、嶽本野ばら初心者にも自信をもってオススメできる傑作です。
大阪の町と西加奈子の魅力がぎゅっと詰まった作品
通天閣
筑摩書房
2009/12/10
この本のあらすじ
冬の大阪ミナミの町を舞台に、若々しく勢いのある文体で人情の機微を描く。このしょーもない世の中に、救いようのない人生に、ささやかだけど暖かい灯をともす絶望と再生の物語。第24回織田作之助賞受賞作。
おすすめコメント
テヘラン生まれ、大阪育ちの小説家、西加奈子。本音と建前、もしくは理想と現実のように、両者が一致したらそれは素晴らしいけれど、なかなかそうもいかないという悩みや葛藤を人間誰しも抱えています。著者はそんな人間が持つ強さも弱さも、綺麗なとこも汚いこともまるごと受けいれ、愛とユーモアをもって正面から描くことのできる希有な作家。笑いと人情の町・大阪で育ったというだけあって、ネイティブな関西弁を駆使した会話劇の面白さと温かさは天下一品です。そんな西加奈子の魅力を味わい尽くすにはこの『通天閣』がオススメ!
いかがでしたか。心まで冷えてしまいがちなこんな寒い季節には、カラッと笑って心が温かくなるような作品が読みたくなりますね。今回は小説に限定してご紹介しましたが、エッセイや漫画などでもまだまだ笑える本はたくさんございます。それらも順次ご紹介していきたいと思っていますので、どうぞお楽しみに!