雨の日に読むべき一篇
ポーの一族
小学館
1974.6.1
この本のあらすじ
1880年ごろ、とある海辺の街をポーツネル男爵一家が訪れた。ロンドンから来たという彼らのことはすぐに市内で評判になった。男爵夫妻とその子供たち、エドガーとメリーベル兄妹の4人は田舎町には似つかわしくない気品をただよわせていたのだ。彼らを見たものはまるで一枚の完璧な絵を見るような感慨にとらわれた。実は、その美しさは時の流れから外れた魔性の美。彼らは人の生血を吸うバンパネラ「ポーの一族」であった。
おすすめコメント
日本を代表する少女漫画家の一人、萩尾望都。1976年に小学館漫画賞少年少女部門を受賞した『ポーの一族』は、萩尾望都の人気を決定的なものとした作品です。そして僕が雨が印象的なマンガといって最初に思い浮かぶのは、本作に収録されている「ペニー・レイン」というお話です。とても暗く悲劇的なお話なのだけど、全体に漂う気品と耽美的なムードに、ほぼ全編にわたってさめざめと降り続く陰鬱な雨がとてもよくあっています。このお話は雨降りの日に読むのが絶対オススメです!
暗い雨雲がよく似合う
雨のなまえ
光文社
2013.10.18
この本のあらすじ
妻の妊娠中、逃げるように浮気をする男。パート先のアルバイト学生に焦がれる中年の主婦。不釣り合いな美しい女と結婚したサラリーマン。幼なじみの少女の死を引きずり続ける中学教師。まだ小さな息子とふたりで生きることを決めた女――。満たされない思い。逃げ出したくなるような現実。殺伐としたこの日常を生きるすべての人に贈る。いま最も新作が待たれる作家が、雨の音を背景に描く、ヒリヒリするほど生々しい五人の物語。
おすすめコメント
『ふがいない僕は空を見た』で山本周五郎賞、『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞をそれぞれ受賞し、作家として円熟味が増してきた窪美澄。本作はそんな彼女が「雨」をテーマに紡いだ五つの物語を集めた短編集です。やはりというべきか、「雨」というテーマと彼女の作風とが相まって、暗く重たいトーンの鬱屈とした話ばかりなのですが、まるで雨が地面に染み込むように僕の心に静かに染み入っていき、読後もしばらくこの物語が頭から離れませんでした。雨の日だからこそ、とびきり暗い物語に浸るのも良いのではないでしょうか。
雨がやんだらミロンガへ
階段を駆け上がる
左右社
2010.7.30
この本のあらすじ
現実から一歩だけ遠のくと、そこには物語の時間がはかなく美しく流れる。ほんの一歩、それが小説。主人公たちはあらゆる人生を越えている。
おすすめコメント
夏のカラッと晴れた爽やかなシーンが印象的な片岡義男ですが、個人的に彼の描く雨のシーンがすごく好きです。とくに本好きの皆さんにオススメしたいのが本作に収録されている短編「雨降りのミロンガ」です。勘の良い方ならお気づきかもしれませんが、本作のタイトルにもなっている「ミロンガ」とは、古書の街・神保町にあるクラシックカフェ「ミロンガ(現ミロンガ・ヌォーバ)」のことです。ある雨の日に、かつてミロンガでウェイトレスをしていた女性と20年ぶりに偶然再会する、というお話で、コンパクトながら示唆に富んだとても素敵な物語です。そして、神保町、とくにミロンガに行きたくなります!
大胆で繊細な女子高生の片思い
恋は雨上がりのように 1
小学館
2015.1.9
この本のあらすじ
橘あきら。17歳。高校2年生。
感情表現が少ないクールな彼女が、胸に秘めし恋。
その相手はバイト先のファミレス店長。
ちょっと寝ぐせがついてて、
たまにチャックが開いてて、
後頭部には10円ハゲのある
そんな冴えないおじさん。
海辺の街を舞台に
青春の交差点で立ち止まったままの彼女と
人生の折り返し地点にさしかかった彼が織りなす
小さな恋のものがたり。
おすすめコメント
タイトルに「雨」と入っているだけあって、物語の全体を通して雨が重要なモチーフとして登場します。肌にまとわりつくような梅雨の熱気、雨に濡れた緑の匂い、そして雨上がりの爽快感。これらの情景が雨の匂いや音、質感などを伴ってありありと浮かび上がり、心地よく読者の五感に刺激します。ストーリーもとても面白いですよ。クールな女子高生が45歳のファミレスの店長に恋をする話なのですが、物語、設定、絵柄、全てが絶妙に嫌味のないラインに設定されていて、作者の繊細な感性が伝わってきます。まだ2巻までしか出ていないので、今後の展開への期待大です!
いかがでしたか。せっかくなので雨降りの日々を目一杯楽しむ読書ができると良いですね。さて次週は昨今の入り組んだ世界情勢を紐解くべく「一から学べる近代史」をお送りします。どうぞお楽しみに!