昭和の文学の香りが漂う傑作
水色の部屋
太田出版
2014.12.4
この本のあらすじ
高校生の柄本正文は母親のサホと二人暮らし。美しい母親に対して屈折した愛情を抱いていた。その想いはやがて、ある事件を引き起こしてしまう――。『R-中学生』のゴトウユキコが圧倒的な深度で描く、母と息子の性と愛。
昭和の日本映画みたいでせつなくてエロくてよいです。僕には描けません。――山本直樹(漫画家)
おすすめコメント
Webマガジン「ぽこぽこ」で連載されていた当時から、一部のマンガ好きの間で話題になっていた本作。『R−中学生』『ウシハル』といった著者のそれまでの作品とは明らかに一線を画すトーンに、読み始めはやや面食らいましたが、すぐにこれはただ事でない傑作になると確信しました。作中を通して静かにじっとりとまとわりつく色気と狂気。彼らに巻き起こる痛ましい悲劇を前に、いっそ読むのをやめてしまいたいと思いつつも、ついに最後までページをめくる手が止めることができませんでした。浅野いにおや山本直樹らが絶賛のコメントを寄せ、アラーキーが題字を書いていることからも、本作がどのような水準の傑作なのか推して知るべし!おすすめです。
理屈抜きで面白い!
ゴールデンカムイ
集英社
2015.1.19
この本のあらすじ
『不死身の杉元』日露戦争での鬼神の如き武功から、そう謳われた兵士は、ある目的の為に大金を欲し、かつてゴールドラッシュに沸いた北海道へ足を踏み入れる。そこにはアイヌが隠した莫大な埋蔵金への手掛かりが!? 立ち塞がる圧倒的な大自然と凶悪な死刑囚。そして、アイヌの少女、エゾ狼との出逢い。『黄金を巡る生存競争』開幕ッ!!!!
おすすめコメント
いやー、めちゃくちゃおもしろいです。読者の首根っこをとらえて離さないストーリーの展開力、煩型(うるさがた)も唸らすきっちりとした時代考証、個性的で魅力的なキャラクターの数々、嫌みがなく素直に笑えるギャグ要素。2015年7月時点で3巻まででていますが、いまのところ非の打ち所がない面白さです。個人的には『キングダム』や『ヴィンランド•サガ』が始まったときと似た高揚感で、ここまで続きが気になるマンガは久しぶり!どうぞいまのうちにチェックしてみてください。
軽妙なマシンガントークに酔いしれる
波よ聞いてくれ
講談社
2015.5.22
この本のあらすじ
舞台は北海道サッポロ。主人公の鼓田ミナレは酒場で知り合ったラジオ局員にグチまじりに失恋トークを披露する。すると翌日、録音されていたトークがラジオの生放送で流されてしまった。激高したミナレはラジオ局に突撃するも、ディレクターの口車に乗せられアドリブで自身の恋愛観を叫ぶハメに。この縁でラジオ業界から勧誘されるミナレを中心に、個性あふれる面々の人生が激しく動き出す。まさに、波よ聞いてくれ、なのだ!
おすすめコメント
デビュー作で代表作である『無限の住人』の20年近く続いた連載も完結し、ここ数年は短篇集など比較的短めの傑作を次々と余に送り出してきた沙村広明。ここにきてグッと巨匠の風格を帯びた彼の最新作が本作です。まさに「立て板に水」ということわざを体現するかのように、スルスルとよどみなくまくしたてる主人公•鼓田ミナレ。彼女の台詞は読んでいてとても心地よく、本作は彼女の超絶トークを聴くためのマンガと言っても差し支えないでしょう。そして、本作の肝である彼女のトークが最も栄えるように周到に計算されたストーリー構成と演出からは沙村広明の手腕の確かさがうかがえます。第一話から惜しみなく披露される自分を裏切った元カレへのメッセージ(呪い)「お前は地の果てまでも追いつめて殺す!!」には痺れました。ラジオ好きにもおすすめです!
ファン歓喜、約8年ぶりに続巻発売!
俺と悪魔のブルーズ
講談社
2005.1.21
この本のあらすじ
十字路で悪魔と取り引きすれば、すべての願いは叶えられる――「クロスロード伝説」であまりにも有名な伝説的ブルーズマンの生涯をモデルに、奇才が渾身で描いた本格ストーリー漫画作品、遂に刊行! 1920年代末、アメリカ南部・ミシシッピ州デルタ地帯。黒人の大半は、白人所有の農園で小作人となるしかなかった時代。ブルーズマンを夢見ながら、ろくにギターも弾けない平凡な農夫・RJを待ち受ける漆黒の運命とは!?
おすすめコメント
『アゴなしゲンとオレ物語』『監獄学園』で知られる平本アキラの幻の最高傑作が本作『俺と悪魔のブルーズ』です。前述した2作のようなコメディ作品と同じ作者とは思えないシリアスなタッチの本作ですが、その圧倒的な迫力と緊迫のストーリーは多くのマンガ好きから高い評価をされていました。しかし2008年4月号を最後に連載は突如中断。事実上打ち切りのような形になっており、こんな名作の続きを読むことが出来ないなんて、、、とファンが失意の日々を送ること約8年、ついに今年7月に待望の続巻である5巻が発売されたのです!内容は相変わらず最高でした。おすすめです。
何度も読み返したくなる傑作
ちいさこべえ
小学館
2013.3.29
この本のあらすじ
火事で実家の工務店「大留」が焼け、両親をなくした若棟梁・茂次は、「どんなに時代が変わっても人に大切なものは、人情と意地だぜ」という父・留造の言葉を胸に大留再建を誓う。そこに、身寄りのないお手伝いのりつ、行き場を失った福祉施設の子供達が転がり込んできて・・・・・・ひげもじゃ若棟梁の崖っぷち人生劇場幕開き――山本周五郎の名作時代小説「ちいさこべ」を望月ワールド全開で新解釈する挑戦意欲作!
おすすめコメント
以前にもこちらの連載でご紹介した本作ですが、今年3月に発売された4巻で見事に完結しました。主人公の茂次やヒロインのりつはもちろん、子どもたちや「大留」の職人など、作中に登場するすべてのキャラクターにしっかりと血が通っていて、例外なくチャーミングです。叶うことなら彼らの暮らしをこれからもずっと見ていたいと願わずにいられませんでした。4巻でりつが菊二の想いを知る場面から最高潮の盛り上がりを見せる感動のクライマックスへ。このくだりは何度読んでもグッときます。ぜひ山本周五郎をはじめとする人情派時代小説が好きな方にも読んでもらいたい作品です。
独創的な発想が面白い注目作
ダンジョン飯
KADOKAWA / エンターブレイン
2015.1.15
この本のあらすじ
ダンジョンの奥深くでドラゴンに襲われ、金と食料を失ってしまった冒険者・ライオス一行。再びダンジョンに挑もうにも、このまま行けば、途中で飢え死にしてしまう・・・・・・。そこでライオスは決意する「そうだ、モンスターを食べよう!」スライム、バジリスク、ミミック、そしてドラゴン!! 襲い来る凶暴なモンスターを食べながら、ダンジョンの踏破を目指せ! 冒険者よ!!
おすすめコメント
マンガ好きの間では既に話題沸騰の本作なので、ご存知の方も多いかと思いますが、話題になるだけのことはあり非常によく出来ています。まずなんと言っても「モンスターをおいしく食べよう」という独創的な発想が面白い!一方料理については、モンスターの特性を真面目に分析して論理的に作られていくのも非常に興味深いです。登場する料理を食べたい!となるかはわかりませんが、次はどんなモンスターをどんな調理の仕方でおいしくするのだろうと、続きが気になる良作です。
いかがでしたでしょうか。個人的には「ゴールデンカムイ」の完成度の高さがほぼノーマークだっただけに衝撃でした。さて次週は夏真っ盛りということで「海に行きたくなる小説•マンガ」をお送りします。どうぞお楽しみに!