他者とともに生きるということ
思い出のマーニー 上
岩波書店
2003.7.16
この本のあらすじ
養い親のもとを離れ,転地のため海辺の村の老夫婦にあずけられた少女アンナ。孤独なアンナは、同い年の不思議な少女マーニーと友だちになり、毎日二人で遊びます。ところが、村人はだれもマーニーのことを知らないのでした。
おすすめコメント
2014年、スタジオジブリによる映画化が記憶に新しい本作。一夏の不思議な出来事を通して、思春期の女の子の心の揺れと成長を描いたイギリスの古典的名作ですが、決して昔を懐かしんでノスタルジーに浸るだけの作品ではありません。主人公である孤独な少女アンナがどうやって成長していくかに注目して読むと、他者との関わりとその先にある理解、コミュニケーションの本質といった、大人にとっても非常に重要なメッセージが浮かび上がってきます。殻に閉じこもりがちな時にも前向きになれる一冊です。
強くて優しいショートストーリー
復刻版 やなせメルヘン名作集
カザン
2009.11.30
この本のあらすじ
絵本の「アンパンマン」をかきはじめて繁忙の日々に、創作メルヘンを月刊「食生活」に約40年間にわたって連載した。その連載作品のなかから初期の名作を選び、当時の作品を復刻しました。毎日頑張っている皆さんに贈るメルヘンです。
おすすめコメント
40年以上にわたって多くの子供達を夢中にしてきて『アンパンマン』や、誰もが一度は聞いたことがある童謡『手のひらを太陽に』の作詞などで知られる作家・やなせたかし。「生きる喜び」「本当の勇気や優しさとは」といった普遍的なテーマを大いなる愛を持って描き続けた作家だからこそ、これほど長い間、時代が移り変わっても支持され続けているのではないでしょうか。本作に収録されている約1200文字で綴られたショートストーリーたちには彼のこういったエッセンスが凝縮されています。大人にこそオススメの強くて優しい物語たちです。
忘れていたことを思い出させてくれる寓話
ちいさなちいさな王様
講談社
1996.10.18
この本のあらすじ
この世の中のことは全て本当のことなのか? 僕の人差し指サイズの小さな王様。王様の世界では大きく生まれて成長するにつれ小さくなり、しまいには見えなくなってしまうという。長きにわたって愛されてきた30万部突破のドイツのベストセラー小説。「いま、大人が読むべき絵本」と柳田邦男氏推薦。
おすすめコメント
成長するにつれて次第に失われていく、子供の頃に持っていた鋭い感受性や想像力。それを思い出させてくれるのが本作に登場する「ちいさな王様」です。人が成長するにつれて身につける知恵や知識が、社会生活のなかで自分を守る鎧となる一方で、自由で軽やかな発想を妨げる重しにもなっているということに気付かされ、視点を変えて物事を見ることの大切さも教えてくれます。松本大洋の『GOGOモンスター』と併せて読みたい大人のための寓話です。
マーク・トウェインのもうひとつの顔
不思議な少年
岩波書店
1999.12.16
この本のあらすじ
16世紀のオーストリアの小村に,ある日忽然と美少年が現れた.名をサタンといった.村の3人の少年は,彼の巧みな語り口にのせられて不思議な世界へ入りこむ・・・作者は,アメリカの楽天主義を代表する作家だといわれるが,この作品は彼の全く別の一面-人間不信とペシミズムに彩られ,奇妙に人を惹きつける.
おすすめコメント
『トム・ソーヤーの冒険』や『ハックルベリイ・フィンの冒険』の作者として知られるマーク・トウェイン。いかにもアメリカ的な爽快冒険活劇の作者といったイメージの強い彼ですが、これらとは全く趣を異にした彼の隠れた名作が本作『不思議な少年』です。不思議な美少年「サタン」を通して、ミルトン『失楽園』で描かれるような人間の尊厳という大きなテーマに挑みつつ、それでいて全体に漂うのはカート・ヴィネガットのような諦観の先にある乾いたユーモアなのだから堪りません。子供の頃に『トム・ソーヤーの冒険』などに夢中になった方、今度はマーク・トウェインのもうひとつの顔を覗いてみてはいかがでしょうか。
デビュー作にして最高傑作
空色勾玉
徳間書店
2010.6.15
この本のあらすじ
輝の大御神の双子の御子と闇の氏族とが烈しく争う戦乱の世に、闇の巫女姫と生まれながら、光を愛する少女狭也。輝の宮の神殿に縛められ、地底の女神の夢を見ていた、〈大蛇の剣〉の主、稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く……。神々が地上を歩いていた古代の日本〈豊葦原〉を舞台に絢爛豪華に織り上げられた、日本のファンタジー最大の話題作!
おすすめコメント
上橋菜穂子と並んで国内のファンタジー作家の最重要人物に位置付けられる荻原規子。彼女の『RDG レッドデータガール』シリーズ、『西の善き魔女』シリーズなども文句なしの傑作ですが、本作は神様がまだ地上を歩いていた古代日本を舞台としていたり、各章のはじめに和歌が引用されていたりと、大人にもオススメの和風な味付けが魅力です。ファンタジー世界の丁寧な描きこみや壮大なストーリー展開はもちろん、デビュー作ならではの勢いと熱量も本書のオススメポイントの一つですね。
いかがでしたか。同じ本でも、いつ読むかによって読後の印象は全く違うものになります。時には以前ピンとこなかった本を再読しているのも良いかもしれませんね。さて次週は「いまバレーボールマンガが熱い!」をお送りします。どうぞお楽しみに!