他人事とは思えないディストピアSF
ザ・サークル
早川書房
2014.12.25
この本のあらすじ
世界最高のインターネット・カンパニー、サークル。広くて明るいキャンパス、一流のシェフを揃えた無料のカフェテリア、熱意ある社員(サークラー)たちが生み出す新技術――そこにないものはない。どんなことも可能だ。 故郷での退屈な仕事を辞めてサークルに転職した24歳のメイは、才気あふれる同僚たちに囲まれて幸せな会社生活を送りはじめる。しかし、サークルで推奨されるソーシャルメディアでの活発な交流は、次第にメイの重荷になっていき…… 人間とインターネットの未来を予見して世界を戦慄させた、笑いと恐ろしさに満ちた傑作小説。
おすすめコメント
筆者のデイブ・エガースの処女作『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』や小説版(映画版の脚本)『かいじゅうたちのいるところ』がすごく好きで、寡作ながら素晴らしい作品を生み出す作家の一人として注目していました。そして本作も期待を上回る面白さです。ソーシャルメディアによる人類の管理が進んだ近未来のディストピアSFかと思いきや、描かれるのは僕らの周りでも実際に起きそうな事柄ばかり。すでに僕らはこの超管理社会に片足を突っ込んでいるという事実に愕然とします。トム・ハンクス、エマ・ワトソンら豪華キャストでの映画化が決まっていて、こちらもいまから楽しみです。
文学の本領を感じさせる名作
服従
河出書房新社
2015.9.14
この本のあらすじ
2022年、フランス大統領選。既成政党の退潮著しいなか、極右・国民戦線党首マリーヌ・ル・ペンと穏健イスラーム政党党首モアメド・ベン・アッベスが決選投票に残る。投票当日、各地の投票所でテロが発生し、ガソリンスタンドには死体が転がり、国全体に報道管制が敷かれる。パリ第三大学で教員をしているぼくは、若く美しい恋人と別れてパリを後にする。自由と民主主義をくつがえす予言的物語、英語版に先駆け、ついに刊行。
おすすめコメント
著者のミシェル・ウエルベックは『素粒子』『ある島の可能性』で人気を確立したフランスの小説家です。イスラム過激派によるシャルリー・エブド襲撃事件が起きた2015年1月7日、奇しくも同じ日に「2022年のフランスでイスラム政権が誕生する」という過激な内容の本作が出版されたました。そして本のタイトルは『服従』。偶然とはにわかに信じがたい数奇な成り立ちの本作は、ウエルベックらしく(もしくはフランス人作家らしく)非常にアイロニカルな視点で現代の病理を鋭く暴きだします。自由とは何か?人間の尊厳とは何か?これらの問いに真正面から挑んだ、これぞ文学の本領といった名作です。
面白いだけじゃない!
帰って来たヒトラー上
河出書房新社
2014.1.21
この本のあらすじ
2011年8月にヒトラーが突然ベルリンで目覚める。彼は自殺したことを覚えていない。まわりの人間は彼のことをヒトラーそっくりの芸人だと思い込み、彼の発言すべてを強烈なブラックジョークだと解釈する。勘違いが勘違いを呼び、彼はテレビのコメディ番組に出演し、人気者になっていく…。
おすすめコメント
とにかく面白い作品です。現代に蘇ったヒトラーがヒトラーとして自然に振舞おうとすればするほど、周囲には質の高いヒトラーそっくり芸人のブラックジョークと受け取られ、たちまちお茶の間の人気者になっていきます。この絶妙なすれ違いはアンジャッシュのコントのようで最高に笑えます。しかしただ笑って終わりにならないところも本作に素晴らしいところ。ヒトラーの人を惹きつける才能、「極端だけど一理ある」発言の数々に、彼の暴走を知っている僕らとしては大いに考えさせられてしまいます。2014年に出版された作品になりますが、圧倒的な面白さなので未読の方には是非オススメしたいです。こちらも映画化されるみたいですね。日本でも公開されると良いのですが。
舞城王太郎ファン必読の一冊
コールド・スナップ
河出書房新社
2014.8.18
この本のあらすじ
クソったれのボケってなもんだ。神はどうして私にこんなことしたの?暴力・痛み・性・死……サノバビッチとジャンキーまみれのファックライフ!魂が共鳴する舞城初の翻訳書。
おすすめコメント
癇癪持ちだったり薬物依存者だったり犯罪者だったりと、ロクでもない人物ばかりが登場し、彼らの内で暴れるひりつくような生の衝動をゴツゴツした文体で描く短編小説家トム・ジョーンズ。彼の作品を舞城王太郎が翻訳すると聞いて、期待せずにはいられなかったのですが、期待以上に素晴らしい作品でした。そして「このリズム、息づかい、疾走感。トムとマイジョーは、たぶん魂の双子です。」という岸本佐知子の帯文に完全に同意します。やはり舞城王太郎とトム・ジョーンズの相性は抜群です。岸本佐知子、柴田元幸、舞城王太郎、村上春樹、これほど錚々たる面々がこぞって翻訳をしたがる作家も珍しいのでは。ただ、かなり下品な言葉が頻発するので、苦手な方は注意が必要ですよ。
いかがでしたか。海外文学はなかなか電子化されづらい面もありますが、最近は徐々に増えてきていますので海外文学好きも要チェックですよ。さて次週は「今後が楽しみな新作マンガ」をお送りします。どうぞお楽しみに!