読んでほしいこの本

2015/12/16 written by BOOK TRUCK

心がほっこり温まる小説

寒さの厳しいこの季節。世の中を騒がせているニュースも殺伐としたものが多くて、気分がクサクサしてしまいますね。そんな時こそ小説の出番です。ということで、今週は心がほっこり温まる小説を4冊いたします。どうぞお楽しみくださいませ。

亀岡のカッコ悪さが癖になる!

のろい男 俳優・亀岡拓次

戌井昭人

文藝春秋

2015.11.15

この本のあらすじ

亀岡拓次、40歳。下着泥棒から火宅の作家まで、哀愁漂う男を演れば天下一。傑作シリーズ第二弾の本書では、大女優・松村夏子さんの胸を揉んだり、さっぽろテレビ塔で狙撃されたり、伊東で地元のおっちゃんたちと踊ったり、イカれたTVプロデューサーと保育園のニワトリを追いかけたり。ついに、ポルトガルの海辺の町で、郷愁の酔っぱらいになって・・・・・・。

おすすめコメント

世界を股にかけ(?)、映画に奇跡を起こす最強の脇役俳優、亀岡拓次を描いた人気シリーズ第二弾です。貧乏で、惚れっぽいのに女っ気がなくて、お酒が大好き、脇役ながらもどこか存在感があって、みんなから慕われる亀岡拓次がとてもキュート。気取らずマイペースな亀岡の日常を覗き見ていると、こちらの方の力も良い具合に抜けてきます。同シリーズは2016年1月に映画公開も控えているのですが、予告編を見るとこちらもすごく面白そうです。ぜひ原作と合わせて楽しんでください!

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『博士の愛した数式』に次ぐ新たな代表作

猫を抱いて象と泳ぐ

小川洋子

文藝春秋

2011.7.10

この本のあらすじ

「大きくなること、それは悲劇である」――この警句を胸に11歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指す。その名もリトル・アリョーヒン。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、自分の姿を見せずに指す独自のスタイルから、いつしか“盤下の詩人”と呼ばれ奇跡のように美しい棋譜を生み出す。架空の友人インディラとミイラ、海底チェス倶楽部、白い鳩を肩に載せた少女、老婆令嬢……少年の数奇な運命を切なく描く。小川洋子の到達点を示す傑作。

おすすめコメント

数年前に出版された本作ですが、今でも多くの方にオススメしたい素晴らしい小説です。文芸評論家の福田和也は著書『贅沢な読書』のなかで、贅沢な読書とは、芳醇なワインを心ゆくまで味わうのにも似た享楽的行為だと語っています。本作はまさに上質なワインのような作品です。圧倒的に美しい文章を駆使して、読者の心を優しく包み、そして激しく揺さぶり、うっとりと心酔させてくれます。読後は思わず「これぞ贅沢な読書だ!」と唸ってしまうほどの傑作。チェスを題材とした物語ですが、チェスに何の予備知識のない僕でも十分に楽しめたので、ご心配なく!

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読むとコーヒーが飲みたくなる

コーヒーと恋愛

獅子文六

筑摩書房

2013.4.10

この本のあらすじ

まだテレビが新しかった頃、お茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れさせればピカイチ。そのコーヒーが縁で演劇に情熱を注ぐベンちゃんと仲睦まじい生活が続くはずが、突然“生活革命”を宣言し若い女優の元へ去ってしまう。悲嘆に暮れるモエ子はコーヒー愛好家の友人に相談……ドタバタ劇が始まる。人間味溢れる人々が織りなす軽妙な恋愛ユーモア小説。

おすすめコメント

著者の獅子文六は、1930年代から1960年代まで活躍した売れっ子の小説家・演出家で、ドタバタでユーモラスな群像劇を得意としました。今で言うところの三谷幸喜のような、良い意味での大衆作家といった感じでしょうか。昭和30年代の東京を舞台とした本作は、ドタバタ劇でありながらも、どこかのんびり、ほのぼのしていて読んでいてとても心地よいです。お部屋でのんびりと暖かいコーヒーを飲みながら読むのがオススメですよ。あと、ぜひ三谷幸喜監督で映像化して欲しいなと思いました。その場合の主題歌はサニーデイ・サービスの名曲『コーヒーと恋愛』で決まりですね。

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独特の感性が光る秀作

ソラシド

吉田篤弘

新潮社

2015.1.30

この本のあらすじ

むかし写真誌のレイアウター、今は文筆業のおれは、ふと手にした古い雑誌の記事に惹きつけられる。その二人組は愛してやまないアルバムと一番好きな曲が自分と一致し、片割れはかつてのおれと同じくダブル・ベース弾きだった。彼女たち=ソラシドの断片を掻き集め、おれは紡いでゆく――。クラフト・エヴィング商會の物語作者が描く、失われたものの小説。

おすすめコメント

1986年、冬そのものが音になったような「冬の音楽」を求めながらも、メジャーデビューすることなくひっそりと姿を消した女性デュオ「ソラシド」。ふとしたきっかけでソラシドのことを知った主人公が、彼女たちが残した断片的な記録を手繰りながら、かつてそこに確かに存在したバンド・音楽の実態に迫っていきます。どこか空想的で捉えどころのない小説が多い著者の吉田篤弘。そういった意味では、本作は非常にわかりやすく読みやすいので、吉田篤弘の作品を初めて読むという方に最適なのではないでしょうか。また1980年代、レコード、コーヒーなど、村上春樹との共通点も多く感じられる作品なので、村上春樹好きの方にもオススメです。

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いかがでしたか。自分も辛い気持ちの時、幾度となく本に救われてきた気がします。本の良さを再認識した特集でした。さて次週は年内最後の更新。テーマはいますぐ温泉に行きたくなる本を集めた「温泉へ行こう!」です。どうぞお楽しみに!

BOOK TRUCK

2012年3月オープン。BOOK TRUCKは公園や駅前、野外イベントなどの行く先々に合わせて、その都度品揃えや形態が変わるフレキシブルな移動式本屋として、新刊書、古書、洋書、リトルプレス、雑貨などを販売。

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