巨大企業が抱える闇を暴く
空飛ぶタイヤ (上)
講談社
2009.9.15
この本のあらすじ
走行中の大型トレーラーが脱輪し、はずれたタイヤが歩道を歩く若い母親と子を直撃した。トレーラーの製造元ホープ自動車は、トレーラーを所有する赤松運送の整備不良が原因と主張するが、社長の赤松は到底納得できない。独自に真相に迫ろうとする赤松を阻む、大企業の論理に。会社の経営は混迷を極め、家族からも孤立し、絶望のどん底に堕ちた赤松に、週刊誌記者・榎本が驚愕の事実をもたらす。
おすすめコメント
『半沢直樹シリーズ』『下町ロケット』などのヒット作で知られ、10年代を代表する売れっ子作家のひとり、池井戸潤。銀行出身でビジネス書の執筆経験も豊富ということもあって、いま企業小説を書かせたら右に出るものはいないのではないでしょうか。三菱自動車工業のリコール隠し事件を題材にした本作のように、巨大権力に立ち向かう個人を描いた社会派小説には、山崎豊子の『運命の人』『白い巨塔』という大傑作がありますが、本作もこれらにまったく引けを取らない見事な作品に仕上がっています。企業の論理と、その不条理性に触れるには最適な作品かもしれません。
働く女性の応援歌
エール!(3)
実業之日本社
2013.10.4
この本のあらすじ
原田マハ、日明恩、森谷明子、山本幸久、吉永南央、伊坂幸太郎! 豪華執筆陣によるお仕事小説アンソロジー第3弾。かつての親友との対峙、不本意な異動先での奮闘、小さなコミュニティでの葛藤・・・・・・ヒロインたちの奮闘する姿が、心に響く全6話。「国宝級の美術品も、あの運送会社さんが運んでるんだ!」「救急車が現場に到着する仕組みってすごい!」「新幹線車両の清掃時間、短っ!」など、身近な職業の裏側や豆知識も満載。
おすすめコメント
旬の作家たちが働く女性を描く、お仕事小説アンソロジーシリーズの第3弾。今回は、美術品輸送・展示スタッフや、災害救急情報センター通信員、新幹線清掃スタッフといった、どちらかといえば裏方に近いような職業が多く取り上げられています。どれも派手さはないかもしれませんが、堅実で丁寧な仕事が求められる重要な職業です。こういった仕事に従事する葛藤を抱きながらも、彼女たちなりの矜持を持って仕事を全うする姿がかっこいいです。いろいろな作家の作品が一度に読めるのもアンソロジーの良さの一つなので、お気に入りの作家のものだけでなく、ぜひ一冊通して読んでみてください。予期せぬ幸福な出会いがあるかもしれませんよ。
実力派作家の手腕が光る
舟を編む
光文社
2015.3.20
この本のあらすじ
出版社の営業部員・馬締光也(まじめみつや)は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作! 馬締の恋文全文(?)収録!
おすすめコメント
あまり知られることのない「辞書作り」の現場が舞台になっていますが、仕事の内容や意義、難しさが細かなディテールまできっちり描かれているので、読者もすんなりと登場人物たちに感情移入することができます。この辺りの三浦しをんの手際は見事。この丁寧な描きこみがあるからこそ、登場人物各々が「辞書作り」を通して自分のコンプレックスと対峙し、乗り越えていく展開が生き、じんわりと胸が熱くなります。主人公の馬締ように仕事にひたむきであるのは、とても素敵なことだと素直に思えるお仕事小説の傑作です。
とにかく笑えるお仕事小説の傑作
オロロ畑でつかまえて
集英社
2001.10.24
この本のあらすじ
人口わずか三百人。主な産物はカンピョウ、ヘラチョンペ、オロロ豆。超過疎化にあえぐ日本の秘境・大牛郡牛穴村が、村の起死回生を賭けて立ち上がった! ところが手を組んだ相手は倒産寸前のプロダクション、ユニバーサル広告社。この最弱タッグによる、やぶれかぶれの村おこし大作戦『牛穴村 新発売キャンペーン』が、今始まる――。ユーモア小説の傑作。
おすすめコメント
過疎化に悩む東北地方の村の青年会と、倒産寸前の東京の弱小広告代理店がタッグを組み、村起こしに奮闘するお話。聞き取るのが大変なほどきつい東北訛りの青年会と、薄っぺらい業界用語を多用する広告代理店の、まったくかみ合わないやりとりが最高に面白い!特に、広告代理店出身の著者だからこそ書ける「かなりデフォルメされているけど、下手したら実在しそう」な広告代理店の描写が絶妙です。この業界に興味にある方にオススメの一冊です。
いかがでしたか。背筋がピシッと伸びる骨太のものから、肩の力が抜けるユーモラスなものまで様々ですが、どれも単純に物語として面白い作品なので、ぜひ一度トライしてみてください。さて、次週は「国産SF傑作選」をお送りします。どうぞお楽しみに!