日本が誇る<滅亡もの>の傑作
復活の日
KADOKAWA / 角川書店
1998.01
この本のあらすじ
生物化学兵器を載せた小型機がアルプス山中に墜落。それが、人類滅亡へのカウントダウンの始まりだった。春の雪解けとともに世界各地で奇妙な死亡事故が発生し、日本では新種の流感が猛威をふるい死亡率が急上昇。瞬く間に、人類は一握りを残して滅亡してしまった。そして、生き残った人々に、更なる危機が迫る。絶望の中で、一人の日本人研究者が立ち上がった――! 絶滅の危機に瀕する人類に、明日はくるのか? 日本を代表するSF超大作!
おすすめコメント
星新一、筒井康隆と共に「御三家」と呼ばれる、日本SF界の巨匠のひとり、小松左京。数え切れないほどの名作を生み出した彼ですが、『さよならジュピター』『日本沈没』と並んで<滅亡もの>の傑作としてファンの間で評価が高いのが本作です。1964年に発表された作品でありながら、作中で描かれるウイルス感染の恐怖は、エボラ出血熱の脅威が叫ばれている現在に読んでも、全く色褪せることがありません。こういったパンデミックを描いた作品は、事態が水面下でジワリジワリと悪化し、気がついたときにはもはや手の打ちようがなくなっているという絶望感が堪りませんね。そして物語のラスト、絶望的な状況に追い詰められながらも最後まで諦めなかった人類が再生への僅かな希望を手にするという展開は、ベタかもしれませんがやっぱり感動的。若い読者にも読み継がれて欲しい傑作です。
<泣けるSF>といえばこちら
アイの物語
KADOKAWA / 角川書店
2009.3.25
この本のあらすじ
数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、かつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。
おすすめコメント
タイトルが見事すぎて唸ります。「アイ」には、AI(人工知能)、愛、I(私)といった複数の意味をもたせ、それらのキーワードが有機的に絡まり合う物語の構造を端的に表しています。この辺りのテクニカルな仕掛けはSF作家ならではといったところでしょうか。本作を読んで思い出すのが、人工知能について解説した松尾豊の名著『人工知能は人間を超えるか』の帯に記載された「人工知能を知ることは、人間を知ることだ。」という一文。アンドロイドを通して、人間の本質に肉薄した素晴らしいSF作品だと思います。人工知能について視界が開けてきた今こそ読みたい作品ですね。
日本でもっとも美しいSF
永遠の森 博物館惑星
早川書房
2011.3.15
この本のあらすじ
〔日本推理作家協会賞受賞作〕全世界の芸術品が収められた衛星軌道上の巨大博物館〈アフロディーテ〉。そこでは、データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、日々搬入されるいわく付きの物品に対処するなかで、芸術にこめられた人びとの想いに触れていた。切なさの名手が描く美をめぐる9つの物語
おすすめコメント
地球の衛星軌道上の小惑星がまるごと美術館・博物館になっていて、世界中の「美」を収集しているという設定にワクワクせずにはいられません。そんな夢のような舞台で語られる物語のテーマは、「美」とは何か、「芸術」とは何か。ミステリー要素が絡んでくるあたりも、原田マハと少し似ているかもしれませんね。SFの設定を生かされている分、本作の方が全体的に叙情的でロマンチックです。最終話で散りばめられた伏線を見事に回収する手際も鮮やか。美しいものが好きな方、アートに関わる方には是非読んでいただきたい作品です。
月面開発SFの本丸
第六大陸1
早川書房
2009.6.30
この本のあらすじ
西暦2025年。極限環境下での建設事業を得意とする御鳥羽総合建設は、巨大レジャー企業から新たな計画を受注した。工期は十年、予算一千五百億円、そして、建設地は月――。機動建設部の青峰は月面の中国基地へ現場調査に赴くが、そこは想像を絶する苛酷な環境だった。月面開発計画「第六大陸」全二巻着工!
おすすめコメント
アメリカに『火星の人』があるなら、日本には『第六大陸』がある!と、思わず声高に叫びたくなるような傑作です。どちらも近未来を舞台にしたリアリティ水準の高いSF作品で、荒唐無稽な設定や技術は登場せず、実現可能性が高いと思われる未来の技術を駆使して、現状を打開しようとするプロフェッショナルたちの物語。面白くないわけありません!ちなみにカバーの挿絵を描くのは幸村誠。というわけで『プラネテス』が好きな方は必読ですよ。
いかがでしたか。はっきり言って4作品ともめちゃくちゃ面白いので、なんか面白い小説読みたいなと思った時に、ぜひ手にとってみてください。さて次週は「あの名作が漫画で蘇る!」と題して、有名小説をコミカライズした注目作をご紹介します。どうぞお楽しみに!