史上最恐の呼び声高いクラシック
黒い家
KADOKAWA / 角川書店
1997/6/27
この本のあらすじ
若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに……。
おすすめコメント
身の毛もよだつとはまさにこのこと。第4回日本ホラー小説大賞を受賞した、日本のホラー小説を代表する屈指の傑作です。丁寧な描写とストーリーの面白さが飛び抜けているので、ホラー小説入門者はまずはここから読んでみるのがオススメ。やはり貴志祐介は人間の心に潜む狂気や異常性を描き出すのが恐ろしくうまい!結局一番恐いのは人間なのです。そして、『黒い家』が面白かったという方に是非オススメしたいのが、同じく貴志祐介の『天使の囀り』です。こちらも恐いのにページを捲る手を止められない名作ですので、未読の方はぜひ!
正統派“怖い話”の名作
夜は一緒に散歩しよ
KADOKAWA / メディアファクトリー
2009/8/21
この本のあらすじ
作家の横田卓郎は妻を亡くし、娘の千秋と二人で暮らしていた。妻の死後、千秋は奇妙な絵を描くようになる……。人ではない異形のものを。ある日をきっかけに「青い顔の女」ばかりを描くようになった千秋は、その絵を「ママ」と呼び、絵を描くことに執着する。そしてもうひとつ執着すること。それは、夜の散歩だった。
おすすめコメント
こちらはホラー小説のなかでも、幽霊、妖怪、怪物などの異形のものに恐怖する“怪談小説”と呼ばれるジャンルの傑作です。母親を亡くした幼稚園児の女の子だけに見えている人間ならざる“何か”。その女の子が見ている世界を、彼女が取り憑かれたように描く不気味な絵を通して覗き見していくのですが、これがこの上なく気持ち悪くて恐ろしい。読後は大人であっても暗闇が恐くなること必至です!ミステリ要素もあって、最後まで興味を持続ささせたまま読み進めることができます。
楳図かずおの天才性を確信する一冊
洗礼
ソニー・デジタルエンタテインメント・サービス
1974年
この本のあらすじ
大スタア若草いずみには決して人には知られたくない秘密があった。彼女の美しい顔には長年浴びてきたライトと化粧のせいで醜いアザが出来ていたのだ。しかもそれは年々大きくなっていった。永遠の美しさを切望するいずみが取った行動とは…。楳図かずおが化け物や怪物といった恐怖では無く、人間そのものの恐ろしさに挑んだ代表作!
おすすめコメント
恐怖マンガの巨匠、楳図かずおの作品のなかでも『おろち』『神の左手悪魔の右手』と並んで、最高峰の怖さを誇る本作。自分の娘の「美」と「若さ」を妬んだ母親が、脳を移植することで娘の身体を乗っ取ろうと考え、その計画を知った娘は必至に逃げようとするのですが、やがて捕まってしまい、、、と、ここまでは緊迫感があって怖いながらも比較的よくあるモチーフなのですが、本作で真に恐ろしいのは身体を乗っ取られた後の展開なのです。緻密に計算された予想外の展開に思わずゾクッ!!是非この恐怖をみなさまの目でお確かめ下さい。
最後の最後まで目が離せないサスペンスホラー
ミュージアム
講談社
2013/11/6
この本のあらすじ
悪魔の蛙男、"私刑"執行。"ドッグフードの刑"母の痛みを知りましょうの刑"均等の愛の刑"針千本のーますの刑"ずっと美しくの刑"――。すべては、ある1つの裁判から始まった。超戦慄連続猟奇サスペンスホラー、絶望大解禁!!!
おすすめコメント
事件の解決からラストシーンまでのシークエンスに鳥肌が立ちました。事件の解決後もどうもすっきりとしない不穏な空気が漂い、読後も読者にまとわりつくような不気味な余韻を残して物語は幕を閉じます。僕としては横溝正史作品的な味わい深いラストだと思ったのですが、見る人によっては少し釈然としない結末かもしれません。しかしご安心を。著者はそんな方々のためにとっておきの仕掛けを残しておりました。まさか、この結末の真相に迫るヒントが物語のラスト付近で登場するある人物の「名刺」に隠されているとは!最後にはマンガを飛び出して読者自身が物語の謎を解くユニークな仕掛けが新鮮な良作ホラーです。
第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品
玩具修理者
KADOKAWA / 角川書店
1999/4
この本のあらすじ
玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも……死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬうちにどうにかしなければ。私は弟を玩具修理者の所へ持って行く……。
おすすめコメント
表題作の『玩具修理者』は何でも修理しまう男の元に死んだ弟を持ち込み直してもらうという気味の悪い設定が秀逸。40ページほどの短い作品と言うこともあり、テンポよく恐怖が積み重ねられ、最後にゾッとするような切れ味の良いオチがつく、なんとも小気味の良いホラー作品です。そして、本書に収録されているもう一つの中編作品『酔歩する男』は、『玩具修理者』と対称的に、どっしりとしたテーマにSFの要素も盛り込まれ非常に読み応えのある名作に仕上がっています。1冊で違ったテイストのふたつ名作ホラーを楽しめる嬉しい作品集です。
まるで綾辻版『13日の金曜日』!!
殺人鬼 ――覚醒篇
KADOKAWA / 角川書店
2011/8/25
この本のあらすじ
90年代のある夏、双葉山に集った〈TCメンバーズ〉の一行は、突如出現した殺人鬼により、一人、また一人と惨殺されてゆく……いつ果てるとも知れない地獄の饗宴。その奥底に仕込まれた驚愕の仕掛けとは?
おすすめコメント
「山に合宿に来ていたグループが謎の殺人鬼に襲われ、次々と惨殺されていく」という、スプラッターホラーのテンプレのような展開に思わずニヤリ。『13日の金曜日』のジェイソンばりの殺人鬼が、これでもかと言うほどに残虐な殺人を繰り返す大味なスプラッターホラーかと思いきや、綾辻行人が得意とする叙述トリックもきっちりと盛り込み、綾辻ファンやミステリ好きにも嬉しい一冊に仕上げている辺りはさすがです。さらに、続編の『殺人鬼 ――逆襲篇』では、スプラッターレベルが大幅にアップし、ホラー作品としての見せ場も倍増しています!
“恐怖”は不安の種から発芽する!
不安の種
秋田書店
2004/6/24
この本のあらすじ
生ぬるい風、落下する不快感、背中に刺さる冷たい視線…。闇の種が発芽する時、非日常のモノ共が出現する!!
おすすめコメント
「お風呂でシャンプーをする時閉じていた目をそーっとあけたら何かがいるんじゃないか」「ちょっとだけ開いた部屋のドアの隙間から何かがこっちを見ているんじゃないか」といった誰にでも覚えのあるような恐怖と言うには少し大げさなあの感情。それこそが本書のタイトルにもなっている「不安の種」です。日常にある不安の種を3ページ〜5ページくらいの短いストーリーにまとめた本書を読むと、子どもの頃に暗闇や学校などで感じていた漠然とした不安を思い出し、夜中ひとりでトイレに行くのがちょっとだけ怖くなります。
なんだかホラー作品は激辛料理に似ていると思いました。本当に良い激辛料理はただひたすらに辛いだけでなく、刺すような刺激のなかにもしっかりと素材の旨味やコクが感じられ、料理としてちゃんと調和のとれているものです。ホラー作品もまったく同じ。今回紹介した7冊はどれもただ恐いだけじゃなく、語り口の巧みさやお話としての面白さも備えた良質のホラー作品ばかりですよ。