すべてはSo it goes.(そういうものだ。)
スローターハウス 5
早川書房
1978/12/31
この本のあらすじ
主人公ビリーが経験する、けいれん的時間旅行!ドレスデン一九四五年、トラルファマドール星動物園、ニューヨーク一九五五年、ニュー・シカゴ一九七六年……断片的人生を発作的に繰り返しつつ明らかにされる歴史のアイロニー。鬼才がSFの持つ特色をあますところなく使って、活写する不条理な世界の鳥瞰図!
おすすめコメント
主人公のビリー・ビルグリムは、ある事情により、時間も空間も飛び越えて、自分の人生の様々な場面をランダムに追体験している男です。本書では、このSF的設定を舞台装置として、先の大戦で体験したナチスの捕囚生活やドレスデン爆撃、異星人との交流、そしてビリーの死など、彼の人生で起きた様々な出来事に立ち会い、追体験していく事で、この世界の成り立ちや人間の営みについて分析していく構成になっています。ヒューゴー賞も受賞し、映画にもなった本作で繰り返し登場する名セリフ「So it goes.(そういうものだ。)」はあまりにも有名ですね。このセリフは、残酷で無常なこの世界に対する悲しき諦観と、この世界で生きていくために必要不可欠なユーモアと、その果てにあるかすかな肯定感がない交ぜになったもので、この一文に本作のメッセージがギュッと凝縮されています。
“権力”をテーマに不変的な社会の仕組みを描いた寓話
動物農場
KADOKAWA / 角川書店
1972/8/21
この本のあらすじ
一従軍記者としてスペイン戦線に投じた著者が見たものは、スターリン独裁下の欺瞞に満ちた社会主義の実態であった……寓話に仮託し、怒りをこめて、このソビエト的ファシズムを痛撃する。
おすすめコメント
粗野で無能な農場主に虐げられてきた動物たちが、「すべての動物は平等である」という理念を掲げ、動物たちによる理想的な社会を目指して革命を起こします。革命は見事成功し、人間を追放して自由で平等な素晴らしき世界が待っているかと思いきや、動物たちのリーダーとして権力を持った豚が、次第に他の動物たちを支配し搾取し始めます。スターリン独裁下の社会への批判と皮肉を込めて書かれた本作ですが、そこには支配するものと支配されるものによって成り立っている不変的な社会の仕組みが描かれており、現代社会においても社会風刺として十分に機能する強度を持っています。
世界の不条理性を教えてくれる名作
変身
KADOKAWA / 角川書店
2012/10/16
この本のあらすじ
平凡なセールスマンのグレゴール・ザムザは気がかりな夢からさめたある朝、一匹の巨大な褐色の毒虫と変わった自分を発見する……。非現実的な悪夢をきわめてリアルに描き現代人の不安と恐怖をあらわにした傑作中篇小説。
おすすめコメント
ある朝目が覚めたら何の前触れも理由もなく自分が毒虫になっていたという奇妙でシュールな設定。大学生の頃に初めて読んで大きな衝撃を受けた作品で、こういった物語の語り方もありなのかと、自分の小説の読み方や解釈の仕方を一変させてくれた作品です。非現実的な設定、非論理的で不条理な展開なのに、登場人物の言動には不思議とリアリティや説得力があって、そもそも世界とは非論理的で不条理なものだと教えてくれるようです。もちろんこの“毒虫になる”という設定を大胆なメタファーとして読み解く事ができるわけですが、いったい“毒虫になる”とは何を意味しているのでしょうか。それに想いを巡らすと本作のメッセージがより鋭いものとして感じられます。
「夢」に取り憑かれた男の一生
月と六ペンス
光文社
2008/6/20
この本のあらすじ
新進作家の「私」は、知り合いのストリックランド夫人が催した晩餐会で株式仲買人をしている彼女の夫を紹介される。特別な印象のない人物だったが、ある日突然、女とパリへ出奔したという噂を聞く。夫人の依頼により、海を渡って彼を見つけ出しはしたのだが……。創造の悪魔に憑かれた男ゴーギャンをモデルに、最期まで絵筆を手放さなかった男の執念と情熱を描く。
おすすめコメント
タイトルにある「月」は「夢(幻想)」、「6ペンス」は「現実」の象徴で、夢と現実を対比的に描いた名作です。本文中のセリフ「(夢に取り憑かれて、世間に評価されず貧しい一生を送ったとしても)本当に自分のしたいことをするということ、自分自身に満足し、自分でもいちばん幸福だと思う生活をおくること、それが果たして一生を台なしにすることだろうか?それとも一万ポンドの年収と美人の細君とをもち、一流の外科医になること、それが成功なのだろうか?」という部分が心に響きます。夢と現実、どちらに重心を置くのが良いと一口に言う事はできませんが、こういった生き方も尊重される世の中が窮屈じゃなくて良いなあと僕は思います。
人間の尊厳とはなんたるかを思い知る
老人と海
光文社
2014/9/20
この本のあらすじ
数カ月続く不漁のため周囲から同情の視線を向けられながらも、独りで舟を出し、獲物を待つ老サンチャゴ。やがて巨大なカジキが仕掛けに食らいつき、3日にわたる壮絶な闘いが始まる……。決して屈服しない男の力強い姿と哀愁を描いたヘミングウェイ文学の最高傑作。
おすすめコメント
話としては、妻と死別した孤独な漁師であるひとりの老人が、数ヶ月あまりの不漁の後に、大きなカジキマグロと孤独な戦いをするという、いたってシンプルなもの。さらに、ヘミングウェイは簡潔な文体が特徴で、老人の孤独な戦いが淡々と綴られていくので、10代の頃に初めて読んだときは正直ピンときませんでした。しかし、社会に出ていろいろな人生経験を積んだ後に再び読み返してみたら、このシンプルな物語が男の生き様、人間の尊厳、老人の高潔さを驚くほど雄弁に物語っていることに気がつきました。人の人生はとても儚い、だからこそ尊いのだという事を僕に教えてくれた名作です。
SFというジャンルの入り口に最適な一冊
火星年代記
早川書房
2010/7/15
この本のあらすじ
人類は火星へ火星へと寄せ波のように押し寄せ、やがて地球人の村ができ、町ができ、哀れな火星人たちは、その廃墟からしだいに姿を消していった……抒情と幻想の詩人が、オムニバス中・短篇によって紡ぎあげた、SF文学史上に燦然と輝く永遠の記念碑。新たな序文と二短篇を加えた〔新版〕!
おすすめコメント
1950年に単行本が発売された本作は、今でも必ず「好きなSF小説」の上位にランクインしている事からもわかるように、時代を超えて愛されるSF小説の古典的名作です。作者のブラッドベリの作品はSFと言ってもゴリゴリのハードSFではなく、詩的な表現や、抽象的な世界観などが特徴の寓話的なSF作品が多いので、SFというジャンルに少し苦手意識がある方でも十分に楽しむことができます。そして現在作られている映画、マンガ、アニメなどに計り知れない影響を与えているので、本作を押さえておくと他の作品たちもより深く理解し、楽しむ事ができますよ!
今回ご紹介したのは、僕が本を読むことの楽しさに気がついた10代の終わりの頃に夢中で読んでいた海外文学たちです。この時期に出会った本たちは自分のなかできっと一生特別な存在なんだろうと思います。来週は「10代のうちに読んでおきたい小説【国内文学編】」をお送りしますので、どうぞお楽しみに!