直球ど真ん中の青春小説『Water』
最後の息子
文藝春秋
2002.8.10
この本のあらすじ
新宿でオカマの「閻魔」ちゃんと同棲して、時々はガールフレンドとも会いながら、気楽なモラトリアムの日々を過ごす「ぼく」のビデオ日記に残された映像とは…。第84回文学界新人賞を受賞した表題作の他に、長崎の高校水泳部員たちを爽やかに描いた「Water」、「破片」も収録。爽快感200%、とってもキュートな青春小説。
おすすめコメント
「坊主、今から十年後にお前が戻りたくなる場所は、きっとこのバスの中ぞ!ようく見回して覚えておけ。坊主たちは今、将来戻りたくなる場所におるとぞ」 。これは本書に収録されている中篇小説『Water』のなかで、路線バスの運転手が主人公に言うセリフです。僕も高校生の時にはわかりませんでしたが、あれからだいぶ年を重ね、確かにあの時自分は将来戻りたくなる場所に立っていたのだと実感しています。真夏のプールのようにキラキラと爽やかに輝く彼らの青春に、年甲斐もなく胸が高鳴ります。
まだ何者でもないすべての若者へ
新装新版 十九歳の地図
河出書房新社
2015.1.7
この本のあらすじ
予備校生のノートに記された地図と、そこに書き込まれていく×印。東京で生活する少年の拠り所なき鬱屈を瑞々しい筆致で捉えた青春小説の金字塔「十九歳の地図」、デビュー作「一番はじめの出来事」他「蝸牛」「補陀落」を収録。戦後日本文学を代表する作家の第一作品集。
おすすめコメント
子どもと言うには成熟しすぎていて、大人と言うには若すぎる。19歳というのは、なんとも足場の定まらない年齢です。高校を卒業し自分の世界が急激に広がり始め、自分の将来に対する様々な可能性に直面する時期であるだけに、その可能性の欠片さえも感じられない人にとって、自分には価値がないのではないかと悩み苦しむ時期でもあります。本作の主人公はそんな孤独な19歳の青年。彼が重ねていく虚しいいたずらは、彼の鬱屈した気持ちを晴らす事はありませんが、もがき苦しんでいるのは自分だけではないと、読者に身をもって教えてくれるようです。また、レモンを爆弾に見立てて、ひっそりと丸善に仕掛ける青年を描いた梶井基次郎の名作『檸檬』が好きな方にもオススメですよ。
“21世紀最高の国内SF”の大本命
虐殺器官
早川書房
2010.2.15
この本のあらすじ
9・11を経て、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?
おすすめコメント
夭折の作家・伊藤計劃。作家としての活動期間はわずか2年あまりでありながらも、多くのSF好き、文学好きの間から高い評価と尊敬を得ている作家です。そんな伊藤計劃のデビュー作がこちら『虐殺器官』。早川書房が発行している『SFが読みたい!』にて「ゼロ年代SFベスト30」国内篇第1位に選ばれた本作は、9・11後の世界が抱える問題意識を、確かな筆致と類い稀な物語構成力で紡いだ傑作です。決して読みやすい小説ではありませんが、軍人でありながらややナイーブな主人公の独り語りというスタイルは、現代日本の若者には比較的馴染みやすいかもしれません。SF好き、文学好きであれば避けては通れない名作なので、今秋にアニメ映画公開を控えているこのタイミングで是非トライしてみてください。
人類の最大の武器は想像力だ!
想像ラジオ
河出書房新社
2015.2.6
この本のあらすじ
深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は―東日本大震災を背景に、生者と死者の新たな関係を描き出しベストセラーとなった著者代表作。 野間文芸新人賞受賞。
おすすめコメント
生者は死者と繋がる事ができないのと同じように、生者同士であってもそう簡単に他者と繋がる事ができません。そんな現実を前に、本書は他者と繋がるために本当に大切なことが何であるかを教えてくれます。それは恐れることなく耳を傾けること、そして想像すること。深刻なテーマを語る軽妙なテンポと語り口に、カート・ヴォネガットにも似たユーモアと無常観を感じました。東日本大震災を契機に、多くの日本人が死を日常と隣り合わせに存在する身近なものとして見つめ直すことになりました。いつだって「死」という影の存在は、僕らに「生」という光の輝きや尊さに気がつかせてくれますね。
これが現代の日本語のお手本だ!
ちくま日本文学全集夏目漱石
筑摩書房
1992.1.20
この本のあらすじ
日本の近代文学史を彩るキラ星たち。そんな作家の代表作を短篇中心にコンパクトな一冊に収める文学全集。各巻に詳細な年譜を附す。本巻では、代表作をはじめ、短篇、近代個人主義を論じた評論等、明治期最大の文豪であり、近代日本を代表する知識人の多彩な作品群を味わうことができる。
おすすめコメント
現代の日本における「国民的作家」と言えば、誰を思い浮かべるでしょうか?おそらく毎年のようにノーベル文学賞の候補に名前が挙がる村上春樹を挙げる人が多いかと思います。そんな村上春樹が『芥川龍之介短編集』という本の序文の中で、日本の「国民的作家」の筆頭に挙げているのが、近代日本を代表する作家・夏目漱石です。なんとなくすごい人と言う認識の方も多いかと思いますが、マンガ界の手塚治虫のように、漱石の登場以前と以後では日本語表現の質がまったく変わったと言われるくらいの最重要人物なのです。古典といって毛嫌いしてはもったいない!本書はまったく古びることのない不朽の名作たちが多数収録されているので、本好きであればとりあえず押さえておきたい一冊です。
赤川次郎の人気の理由とは?
ふたり
新潮社
1991.11.28
この本のあらすじ
お姉ちゃんは高校二年までしか生きなかった。でも、私が来年高校一年になり、二年になり、三年になったら、私はお姉ちゃんの歳を追い越してしまう。それでもお姉ちゃんは、ずっと私の中にいてくれる? 死んだはずの姉の声が、突然、頭の中に聞こえてきた時から、千津子と実加の奇妙な共同生活が始まった……。妹と17歳で時の止まった姉。絶対泣ける、二人の姉妹のほろ苦い青春ファンタジー。
おすすめコメント
赤川作品の最大の魅力は、本を読むのが苦手な人でも抵抗なくすんなり読み進めることができる取っ付きやすさ、読みやすさです。しかし、この軽やかさゆえに、彼の作品を読んだ事のない本好きの一部に「読みやすいだけの大衆小説」と敬遠されがちなのですが、それは大きな間違いです。軽やかなエンターテインメントとして読者を楽しめませつつ、鋭く深いメッセージを作品内に忍ばせることができるからこそ赤川次郎は人気作家なのです。是非誤った先入観を持つ前に一読する事をオススメします!また、こうしたファンタジー的な仕掛けを純粋な気持ちで楽しめるのも10代の特権ですよ。
2週にわたって「10代のうちに読んでおきたい小説」をご紹介してきましたが、あらためて小説って良いなあと思いました。今回紹介しきれなかった素晴らしい作品も山ほどありますので、またの機会にご紹介させて下さい。さて次週は「やる気が湧いてくる熱血お仕事マンガ特集」をお送りしますので、どうぞお楽しみに!