#あの人に気になるあのこと聞いてみた

[すべてがFになる THE PERFECT INSIDER]

アニメから見えてくる『すべてがFになる』のすべて

#あの人に気になるあのこと聞いてみた [すべてがFになる THE PERFECT INSIDER]
アニメから見えてくる『すべてがFになる』のすべて

2015年10月、フジテレビ「ノイタミナ」にて、シリーズ累計発行部数390万部の理系ミステリィ『すべてがFになる』が待望のアニメ化。天才プログラマ・真賀田四季の研究所、そこで不可思議な密室殺人に遭遇する犀川創平と西之園萌絵を描く。
小説家・森博嗣の原点であるこのデビュー作、アニメを紐解くと共に、『すべてがFになる』監督の神戸守と、犀川創平役の加瀬康之の対談「『すべてがFになる』はミステリィだけどミステリィじゃない!?」を公開。また、森博嗣の関連作品や、フジテレビ「ノイタミナ」にてアニメ化された原作小説を紹介する。今注目される『すべてがFになる』の世界に触れ、アニメ・原作をより深く楽しもう!

PROFILE

神戸守(かんべまもる)

大阪府出身。スタジオジブリの前身のトップクラフトの制作進行としてアニメ業界に入る。1991年に『忍者龍剣伝』で監督デビュー。近年の監督作は『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』『君と僕。』など。

加瀬康之(かせやすゆき)

東京都出身。アニメ、吹替え、ナレーションなど幅広く活躍。主な出演作はアニメ『イナズマイレブン』『ザ・バットマン』『昭和元禄落語心中』、映画吹替え『アイアンマン』『8Mile』『ハート・ロッカー』など。
公式サイト http://sky.geocities.jp/riztaro/

犀川創平は“いい男”なんです

──まずは神戸監督に『すべてがFになる』アニメ化の経緯に関してお聞きしたいのですが。

神戸順を追って話すとですね、もともとノイタミナ枠でオリジナルの話をやろうとしてたんですが、どうにも難航しまして。なかなか固まらないんで、「これをやりませんか?」と(『すべてがFになる』を)渡されて。

加瀬なるほど。

──原作小説を読まれたときの第一印象はいかがでしたか? アニメ化しやすいとお思いになりましたか?

神戸しやすいとは思わなかったですね。会話中心ですし、アクションがあるわけでもないので、あまりアニメに向いてないんじゃないかと最初は思いました。

──加瀬さんの本作に対しての第一印象は?

加瀬最初、オーディションでセリフを読んだときに……これは(役が)決まらなくていいかなと思いました(笑)。

──そんな!?(笑)

加瀬自分にはこれは無理だよって思ったんです。セリフがとんでもなく難しいところが多くて。

──『すべてがFになる』は“理系ミステリィ”と評されますし、そういう要素からもセリフが難しかったりするのでしょうか。監督は本作に理系的なものを感じましたか?

神戸それはあまり思わなかったですね。(劇中に出てくる)コンピュータ用語とかは理系だなと思いましたけど。

加瀬僕もそうですね。理系っていうよりも、天才の人を描いているっていう印象のほうが強いですかね。

──今、「天才」というキーワードが出ましたが、真賀田四季がまさに天才ですよね。天才の四季は、理解するのが難しい人物じゃありませんでしたか?

神戸正直、理解はしづらいですよね。

加瀬僕もよくわからないです(笑)。

神戸アニメ化に際して流れ図を作ったんですね。このときにこういうことが起こったっていうのをまとめた図を。それを森(博嗣)先生に見てもらったんです。

──間違いなどがないように森先生がチェックしてくださったんですね。

神戸そこで「ここでは四季はこのように考えてます」というような答えを森先生からもらって、なんとなく腑に落ちたなと思ったんですね。四季はこういう考え方をする人なんだって。彼女の人間性はわからないですけど。

──今回のアニメ化で、その四季に焦点を当てた「四季シリーズ」の内容も取り込んだのはなぜですか?

神戸『F』だけですと、(四季の)心情(描写)が少ないと言いますか。見てる人も感情移入がしづらいんじゃないかと。

──それは原作を読んだときに一読者として感じました。

神戸結局、殺人犯でもある四季に感情移入しろって言われても……というところもあったので、感情を描いたところがある「四季シリーズ」も入れたほうが、見てる側も救いになるんじゃないかって考えたんです。

加瀬たぶん『F』だけだと「なんなんだろう、この人?」で終わってたと思うんですけど、間々に『四季』の話が入っていくことによって、彼女がどうしてこうなったかが見てる人にもわかると思いますね。

──加瀬さんが演じる犀川創平も普通の人と違うなと感じました。

加瀬たしかに違いますよね。出てくる言葉も、いわゆる普通の会話のものじゃないので。それをいかに、あたかも、その人が普通にしゃべってるかのように演じるのが難しいところです。

──監督と「犀川はこういう人間なんだ」という話し合いはなさったんですか?

加瀬一番最初に監督の思う犀川像の説明は受けましたね。

神戸……なんて言いましたっけ?(笑)

加瀬いろいろと説明はあったんですけど、最終的に監督からは「一言で言えば、いい男です」と。僕はその一言で救われましたね。「いわゆる天才っぽくやってください」って言われちゃうと、「(困惑した感じで)ええっ……」ってなってたと思うんですが、「いい男ですから」とまとめていただいて。

──ちなみに、理解するのが難しい四季に関して、演じた木戸衣吹さんには人物像をどう説明なさったんですか?

神戸説明はしたんですけど……(笑)。

加瀬僕と同じ日にしてたんで、たぶん(笑)。

神戸ちょっとごっちゃになって(笑)。

宣伝スタッフ木戸さんは「四季は人間っぽくないという捉え方をされがちだけど、恋をする部分もあって、内に秘めた熱いものも持ってる人なんだと監督から言われました」とおっしゃってました。

神戸思い出しました(笑)。犀川にもそういう面があるって話をしましたよね。

加瀬そうですね。

役者が自由になれる収録方法を採用

──今回、収録はアフレコでなくセミプレスコ方式(※プレスコは声優陣の芝居を先に録り、それに合わせて作画を行う手法)だそうですが、セミプレスコを選択したのは監督ですか?

神戸そうです。今回に限ったことではなくて、数年前から結構、このやりかたで収録しています。理由はふたつありまして、まず役者さんに自由にやってもらいたいというのがあります。今までは、だいたい(そのカットの)尺を決めて、そこで「もうちょっと巻いてください」(※尺におさまるように、セリフを言う時間を短くしてください、という意味)とか言ってたんですけど、たぶんそれは役者さんの「間」ではないと思うので。やっぱり演じ手の「間」でやってもらったほうがいいので。そういう形をとるのが理想だろうと。

──ふたつ目の理由は何でしょう?

神戸こちら(制作スタッフ)側というか、絵の問題なんですけど。通常のアフレコでのやりかただと、音声がない状態で映像の編集をするんです。だいたい想定して映像を切るんですけど、例えば(音声を合わせてみると)こぼしたいのに入っちゃったとか、結構あるんですよ。

──セリフを次のカットにハミ出させたいのに、そのカット内で収まってしまうみたいなことがあるんですね。

神戸だから、アフレコが終わった後に、もう1回編集したいと思うことがあるんです。編集で組み立てたものがアフレコすると崩れるっていう。セミプレスコだと、それを防げるんです。

──役者さんとしてはセミプレスコに自由を感じるんでしょうか?

加瀬助かりますね。普通のオーソドックスなアニメだと、台本上の句読点で「ブレス」(※息継ぎして間をとる箇所のこと)になることが多いんですよ。でも、感情の流れで読んでくと、別にこの句読点のところで切りたくないなっていうところもあるわけです。セミプレスコだと、ある意味、句読点を無視して、自分の中の感情でセリフが言えるんで。

アニメならではのオリジナル要素とは?

──原作者の森博嗣先生のコメントに「アニメ独自の設定」という言葉があったのですが、どういったところがオリジナル要素なんでしょうか?

神戸目立つところでは犀川が目薬をさすのが下手とか、(西之園)萌絵が乾燥シイタケをそのまま食べてる、とか。これはネタバレになるんですけど、ある人物の結末も違うんですよ。

加瀬そうなんですよ。○○が●●でない。

神戸あと原作ではさらっと1行で書かれてた部分を……。

加瀬5~6分やりましたね。

神戸未来(※真賀田四季の妹)と犀川が英語で話をするところが、原作だと1行で書かれてた部分なんですが。

加瀬ずっと英語で会話しました。

──加瀬さんは英語はお得意なんですか?

加瀬得意じゃないです(笑)。だから当日は指導の先生が来て。思ったより厳しくて「これは終わらないんじゃないかな……」って思いました(笑)。

──でも、そこは監督としてもふくらませたい部分だった?

神戸(シリーズ構成・脚本の)大野(敏哉)さんと「あのとき、ふたりは何しゃべったんだろうね」って話したんです。ある人物が何を考えてるかっていうのがそこで少し出せるんじゃないかと。

──ところで、先ほどの犀川の目薬が下手というのは、どういうところから出てきたアイディアなんですか?

宣伝スタッフ脚本家の皆さんは、犀川の人物像が無機質に見えないようにチャーミングな要素を盛り込みたくて目薬が下手にしたっておっしゃってましたね。実際に大野敏哉さんが目薬が下手なんだそうです。

加瀬僕もけっこう下手なんで、犀川みたいになりますね。

神戸(実際にイスに深く沈み込むように座ってみせて)こうなりますよね。

加瀬そうそう。口も開きます(笑)。

──キャラクターで言うと、今回、浅野いにおさんの原案も話題を呼んでいます。

神戸アニメっぽくなくていいなと思いました。もともとそうしたかったっていうのもあるんですが。

──キャラクターデザインは浅野さんの原案をもとに進めたと思うんですが、どういった点にこだわったのでしょうか?

神戸こだわりというか、(アニメーターが)描きづらい絵なので。描く人が慣れてないので、どうしても目が大きくなったり、頭身も小ちゃく可愛くなるので。

作品の隠されたテーマはコレだ!?

──いわゆるアニメっぽくならないようにこだわったということですね。監督の中で今回、特にアニメ化したいと思われた原作のシーンなどはありますか?

神戸シーンではなく、絵にできない部分なんですが、考え方っていうんですかね。加瀬さんにも最初に言いましたよね。

加瀬はい。

神戸「感情にとらわれないで考える」「思い込みとか固定観念にしばられちゃいけない」ってことを言ってると思うんですね、この小説って。萌絵は思い込みがあったけど、犀川はニュートラルだから、先に答えにたどりつく。そういうことが伝わればいいなと思ってます。セリフにして言うのは簡単なんですけど、そうしないでやるのは難しいので。

──加瀬さんは監督と、そういった隠れたテーマについても話し合われたんですね。

加瀬おおよその話をいろいろとして、最終的に監督が言ったのは「ミステリィではない」。

──そうなんですか!?

加瀬「えっ!?」って思ったんですけど(笑)。それを聞いて、これは事件を解決していく話ではないと僕はとらえたんです。犀川にとっての問題は「なんで犯人は人を殺したんだろう」ってことじゃないと思うんですよ。「犯人の思考はどうなってたんだろう」ということに興味を持ってるのかなと思って。

──監督の中では本作に関して謎解きを面白く見せるというような意識はあまりないんですか?

神戸ええ。(『すべてがFになる』は)ミステリィの形をしてるけど、ミステリィではない。ミステリィは大好きなんですけど。犀川は、どのようにして密室殺人が行われたかにしか興味がないんですね。「なぜ?」っていうのには関心を示してないし、触れないんですね、最後まで。

──「どういういきさつで、犯人が被害者を殺したのか」っていう、動機とかの、人間ドラマ的な部分に犀川は興味がないということでしょうか。

神戸だから密室殺人の謎は解いたかもしれないけど、事件は解決はしてないんです。だから、ミステリィであって、ミステリィじゃないんじゃないかと。

──なるほど。そういう意味でも本作は変わってますね。

加瀬アニメーションでここまで量の多い会話劇ってのも、最近はそうないんじゃないですか。飛んだり跳ねたりもしないし、ひたすら座ってタバコ吸って(笑)。今回はとにかく、その会話をいかに心地よく聞けるものにするか、僕たちもがんばってます。

神戸今までにあまりこういったタイプのものはなかったんじゃないでしょうか。不思議なミステリィなんだろうなって思います。

取材・文 / 武富元太郎

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